agri blog農業ブログ

【無農薬の米作り】8種の除草法まとめ

こないだ、無農薬の米作りの除草法を教えてほしい、との、すんごい激しいリクエストがありました。

無農薬の米作りにおいて、最重要課題は「除草」で間違いないでしょう!
とくに初期除草を怠ると、苗が雑草(ヒエやコナギ)にみるみる飲まれてしまい、実がならない。
収穫量が下がる云々の前に、実がならないってヤバいですよね。

今回は、主要な除草法を大ボリュームでご紹介したいと思います。
(以下、あくまでも個人的な意見です。)

物理的に除草する

除草機を使う

ウチでも使っているのが、この「手押し除草機」(3万円くらい)

文字通り、手で押して進みます。 ウチのは2条間を除草できるタイプですが、中には3条、4条のタイプも売られています。

前方についたフネが水面を滑り、後方についた2つの歯車が、土をゴリゴリ。表土にあった雑草のタネや雑草の幼芽を土の中に漉き込むことで、除草効果があります。

しかしこの除草法は水位調節がめちゃくちゃ難しいのです!!!

  • 水位が低すぎ ⇒ 歯車がうまく回らず土に漉き込めない
  • 水位が高すぎ ⇒ 除草機を押したときに生じた水流で苗が倒れる
  • 水位が地面ヒタヒタ ⇒ トロトロ状態の土が「土流」となって苗が倒れる

という感じ(言葉で説明するのは難しい!)

もちろん、苗が倒れてしまったら手押しを止めて、1本1本苗を起こしてあげます。
この操作がしんどい!腰が破壊させるぜ!

てなわけで、田んぼによって適当な水位がある、そして土質によっても「やりやすさ」があるので、とにかく何度かやってみて感覚をつかむのが大切だと思います。

メリット

  • 田植え後、2回やれば収穫までいける
  • 小面積しかやらない人は、手押し除草だけで十分

デメリット

  • まじ疲れる!苗を起こすの大変!
  • 去年は12.8反×2~3回、泣きながらやりました。小学校の鉄棒以来の手マメができました。 とある専業農家さんは、使わなくなった田植え機に何個か除草機を取り付け、ゴリゴリ除草しているそうです。
  • 株間は除草できない。でも今は株間も除草できるタイプが売られていたような…
  • 水位調節が難しい

ちなみに、「カルチ」と呼ばれる、手押し除草機の動力バージョンもあります。

これもまた3条~5条のタイプが売られています。
ただ、めっちゃ重い!そしてガソリン(2種混)の補充が面倒!

除草がうまくいかず、雑草がしっかりと根を張ってくると、手押し除草機では雑草を土の中に漉き込めません。うちでは、カルチは最終兵器として倉庫に眠らせてあります。(なお、今年は出動した模様)


チェーン除草

チェーンのついた器具を、ひたすら引きずります。
田植え機などに接続できるものも売っていました。 表土をこすることで除草効果がありますが、表土を漉き込む「除草機」のほうがやはり効果的です。

つーか、やってみればわかりますが これ、苗、バンッバン倒れるやんけ!!!

十年前くらいに空前のチェーン除草ブームが起こったようですが、実際やってみて「あかんやん」と思った方は多いのでは。 チェーン除草、私はあまりおすすめできません…(今でもやられている農家さんはいます。テクニックやコツがあるのでしょうね…)


ジャンボタニシ

はい、でましたジャンボタニシ~!
まぁ簡単に言うと、「でっかいタニシが地面を這いずり回って草を食べてくれる」

出典:By photo taken by de:User:Katrin-die-Räuberbraut [Public domain], via Wikimedia Commons

個人的に「一番おすすめできない」除草法です!
詳しくはWikipedia先生がいい解説をしていたので、引用しつつ説明しますね。

てか、そもそもジャンボタニシは、、、

要注意外来生物 外来種であり、要注意外来生物(外来生物法)、日本の侵略的外来種ワースト100、世界の侵略的外来種ワースト100リスト選定種の1種ともなっている。

(Wikipediaより)

さらに、、、

農業害虫

水田に生息してイネを食害することがあり、 東アジア・東南アジア各地でイネの害虫と見なされる。生息地では、用水路やイネなどに産みつけられる卵塊の鮮やかなピンク色が目だつので、すぐに分かる。水路の壁一面に卵塊が張り付くこともあり、美観上の問題となっている場所もある。

(Wikipediaより)

てなわけで、ジャンボタニシ自体がなかなかの厄介者だということがわかったと思います。
ちなみに成体の体長は5~8cmに達するらしい、デカすぎん? その上で、田んぼの除草に利用しようという発想はなかなかスゴイ。

生きた除草剤

水田の除草手段として利用しようという動きもあるが、これには均平な代かきと微妙な水管理が必要である。方法は、稲苗が標的となる田植え直後に水張りをゼロにし、スクミリンゴガイを眠らせる。その後、1日1mmずつ水深を上げ、雑草の芽を食べさせる。10日後には一気に5cmの深さにする。こうすれば、株元が固くなった稲よりも生えてくる雑草を好んで食べてくれるので、除草剤なしで栽培が可能であるという。

(Wikipediaより)

メリット

  • 成功すればめちゃくちゃキレイになる 草ひとつない、除草剤使ってんの?ってくらいキレイになるそうです。
  • 比較的安価に導入できる

デメリット

  • 稲を食害することもある
  • 田んぼが平たんであることが必要不可欠
  • 水の管理が難しい
  • そもそも要注意外来生物なので要注意
  • 一度導入すると後戻りできないことが多い

とにかく繁殖力が強いのでどんどん増えます。増えすぎたタニシは水路にまでびっしりだとか。
田んぼ内のタニシはトラクターのロータリーで殺せるようですが、田んぼ外に出て繁殖されたらもう、殺虫剤を使うしかないようです。安易に導入するのは絶対にやめましょう!


カブトエビ

「生きた化石」ってやつです。

出典:By Miya [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html), via Wikimedia Commons

これもまた、Wikipedia先生によると、、、

水田の雑草を食べるほか、水田において餌の捕食あるいは産卵のため、水底の泥をかき混ぜる事で水が濁り、濁りによって光が遮られ、雑草の発芽と生長が抑制される。その為「田の草取り虫」とも言われている。

(Wikipediaより)

さらに、カブトエビの甲殻には「キチン」と「キトサン」という、稲の生育に効果的な成分が含まれています。
彼らは頻繁に脱皮するため、脱いだ殻が稲の肥料となるのです。

メリット

  • 成功すればそこそこキレイになるそうです
  • キチンとキトサンの施用にもなる

デメリット

  • カブトエビ類の発生量は年によって大きく変動する
  • そのため除草効果が不安定である(カブトエビ除草法が普及しない一番の理由がこれ)
  • 変動の原因は、未だはっきりと解明されてないんだとか

生化学的に除草する

米ぬか除草法

多くの無農薬米農家で行われているのが、米ぬか除草法。最もポピュラーと言っていいのではないだろうか。 さて、除草の手順と原理を説明していきますね。

1. 田植え直後、土に密着するように散布する。

ウチでは動力散布機を使って、中面まで均一に散布します。
ちなみに灌水後に散布すると、油分が多くて軽い米ぬかは浮いちゃう。
散布量は「100kg/1反」

2. 入水

最低でも4cmの水深を保持する。

3. 米ぬかが微生物により代謝分解され、有機酸が生じる。

この有機酸が雑草の「根っこ」や「幼芽」に効き、最終的に枯らす。 イネは酸性に強いので、有機酸では枯れないってのが面白いところ。

※苗を「根っこむき出し」で田んぼ内に置いておくと、有機酸で根っこがやられ、枯れます!注意!
※米ぬか散布⇒田植え の順にやらないように!!!

この除草法で最も大事なポイントは、発生した「有機酸」を田んぼ内に滞留させること。

モグラが開けた穴から水がダダ漏れ、一晩で水を枯らした、なんてことがあると最悪ですね。
せっかく効いていた有機酸が外に流れ出てしまい、除草効果はほぼ無くなります(経験談)

米ぬかペレット

あと「米ぬかペレット」というのもあります。

粉末である米ぬかを、ペレット成形機を使って粒状にします。 これをドーサン等で散布、あるいは肥料散布機の付いた田植え機で田植えと同時に散布します。
米ぬかは軽いので粉末だと風に流され、均一に散布できないことが多いのですが、ペレットなら大丈夫! 実際やってみて、僕ならペレットでやるかなぁと感じました。

ちなみに、これが米ぬかペレット成形機

メリット

  • 有機酸を滞留させ続け、除草に成功すれば、収穫まで何もしなくてOK! ちなみに成功のサインは「田んぼ全体の色が、オレンジ~褐色になる」ですので、色を注意深く観察してみてください。
  • 比較的安価に導入できる ウチの最寄りのライスセンターでは、米ぬか15kg 180円で売っています。てことは「1反あたり1200円」
  • もちろん肥料効果もある (失敗すれば雑草の肥料にもなる、のは言わずもがな)

デメリット

  • 散布するのが大変!疲れる! 米ぬかを運搬するのも大変だし、動力散布機で1回に散布できる量なんてたかが知れている。 田植え機に米ぬかを積載し、運転しながら散布するのがいいかもしれませんね。
  • ある程度高い水位(4cm以上)を維持する必要がある
  • 水漏れ注意!有機酸が流れ出ちゃう!

糖蜜除草法

みなさんは、EM菌をご存知でしょうか?

EM = Effective Microorganisms

日本語にすると「有効微生物群」
「EM菌」というひとつの菌があるわけではなく、複数の「乳酸菌」「光合成細菌」「酵母」をブレンドした微生物群なのです。

この原液(1Lペットボトル:2000円くらい)を購入し、 ぬるま湯・糖蜜などと混ぜることで微生物を培養し50倍に増やすことができます。

こうして培養した液体は「EM活性液」と呼ばれ、農業だけでなく、河川や池の浄化など幅広く使用されます。

田植え直後(~5日間)に、このEM活性液を「流し込み」あるいは「散布」するのが良いそうです。 液に含まれる糖蜜が、米ぬかと同様に有機酸を発生させ除草効果を発揮するそうです。 そしてEM菌の微生物資材としての効果も期待できる (EM農法などと呼ばれるそうです。出穂の40~50日前にも施用する。)

メリット

  • 安価に導入でき、流し込むだけなので簡単
  • 微生物資材としての効果もあり、美味しいお米ができるそう。

デメリット

  • 除草効果は「そこまで高くない」です。 手押し除草など、確実に効果が得られる除草法との併用を考える必要があります。

遮光する

紙マルチ

ここ最近、登場してきたのが紙マルチ(商品名:カミマルチ) 導入を検討している専業農家さんも増えてきているそうだ。
早速、原理を説明していきますね。

田植えと同時に紙マルチを敷いていく

これは専用の田植え機が必要です (三菱から出ているので試しにレンタルしてみるのが良いでしょう)

あとは灌水するだけでOK!

紙マルチが日光を遮蔽することで、雑草の発生を抑えます。

田植え後40~50日で、紙マルチは生分解される。

あとは成長した苗たち自身によって、日光は遮蔽される!

しかし、下記の通りデメリットの方がデカくて、普及するには時間がかかりそうです。

メリット

  • 高い除草効果
  • 田植え後は水の管理さえしてればいい
  • 生分解性なので後片づけは必要ない

デメリット

  • 高価。これに尽きる。
    1反あたりカミマルチのロールが4,5本必要。1反あたり約2万円かかる計算。採算合いませんなぁ…
  • 紙マルチ専用の田植え機が必要
  • 田植え機が通った部分は、再度通れない
    ⇒事前にしっかりと「コース取り」を検討する必要がある
    ⇒特に枕地の植え方が難しい
    ⇒田んぼの形状がいびつな場合は適応できない
  • 田植え後は中に入れないので補植ができない

浮草の利用

田んぼの中に、こんな浮草を見たことはありませんか?

出典:By Show_ryu [Public domain], from Wikimedia Commons) アカウキクサ属(学名:Azolla アゾラ)

原理はシンプルです。浮草が水面を覆うことで、日光を遮蔽するというもの。

さらに、抑草効果だけでないのがアゾラの強み。

緑肥としての利用

アゾラは「シアノバクテリア」という光合成細菌と共生する、という特徴があります。
この細菌は窒素固定能(大気中の窒素をアンモニアに変換する能力)が高いため、アゾラは窒素成分に富んでおり、稲作を始める前に繁殖させて土に漉き込むことで緑肥として使用されることもあるそうです。

アイガモの飼料にもなる

イネの肥料にもなり・抑草効果もあり・アイガモの飼料にもなる一石三鳥が注目され、アイガモ―アゾラ農法として有名だそうです。
ちなみに「アゾラはイネとの窒素成分をめぐる競争が弱い」と考えられているようです。


しかし、その一方で 「水面を覆ったら水温が低下するやん!」 「水中が酸素不足になるやん!」 「幼苗たちの根元に日光当てたいわ!」 という声もあり、害草として扱われることもあるそうです。

そして極めつけは…

日本に生息するアゾラの多くは,外来生物法により栽培が禁止されているAzolla cristataか,外来種の可能性のあるAzolla filiculoidesおよびA. cristataA.filiculoidesの交雑種であり,在来のアゾラ(Azolla japonica)は長野県佐久市などの一部地域でのみ残存が確認されている。これらアゾラ類の見分け方には専門的な知識を要するので,アゾラの実用化は困難である。

Haruki Takayanagi and Takayoshi Nishida (Sch. of Environ. Sci., The Univ. of Shiga Pref.): Effect of the azolla and paper mulch weeding on the density of spiders in a paddy field, Ann. Rept. Kansai Pl. Prot. (58): 131-133 (2016). より

メリット

  • イネの肥料にもなり・抑草効果もあり・アイガモの飼料にもなる一石三鳥!

デメリット

  • 外来生物法の壁
  • そして、冬期の保管が難しい、とも言われています。
  • 水温の低下、水中の貧酸素化
  • 幼苗の株元に日光が当たらない場合は、苗の成長・分げつを大きく妨げる⇒水面を覆うタイミングが重要になる

アイガモ農法

アイガモはテレビなどでも取り上げられ、言わずと知れた農法だと思います。 「アイガモが田んぼの雑草を食べてくれるって可愛くて素敵!」と。

しかし、十数年前からアイガモ農法をやめていく農家が後を絶たないそうだ。
その理由を紐解いていくと、アイガモ農法の"難しさ"が浮き上がってきます…

アイガモがやってくれること

  • 雑草を食べる(除草)
  • 排泄物が肥料となる
  • ウンカなどの害虫を食べる
  • 泳ぐことで土が攪拌・中耕される
  • 農機が入れないような環境でもスイスイ

これだけみると良いことづくし!アイガモ農法最高!と思っちゃいますが、、、

人間がやるべきこと

アイガモは毎年入れ替える

意外と知られていないのが、アイガモは毎年「使いまわす」ことができない、ということ。田植えの時期になると、生まれたてのヒナを購入して飼育します。 田んぼに放ち、やがて稲穂が出てくるとお役御免。捕獲して食肉になります。
これは、大きくなったアイガモたちが稲穂を食べてしまうから。ちょっと驚きですよね(笑)

天敵から守ってあげる

トンビやタヌキなどは常にアイガモを狙っています。 ネットや柵を設置し、もちろん寝床となる鳥小屋も作らなくてはなりません。あとは生まれたてのヒナを飼育する保温室も。
獣害対策・飼育・さらにはエサやり(田んぼ内の草だけでは足りない)、なかなかの手間がかかりますよね。

除草

え?人間も除草作業するの?アイガモがやってくれるんじゃないの?(笑)
実際やってみると、そんなにうまくいかないらしいですよ~ アイガモだって完璧に草を食べてくれるわけではありません。普通に食べ残します。 そしてアイガモは基本的に群れで行動するので、単純に、田んぼ全面を行動範囲とするわけではないのです。あんま行かない部分もあるってこと。そこはもう、人間の手でやるしかない…

害虫防除

アイガモはすべての害虫を食べてくれるわけではありません。 ツマグロヨコバイというカメムシの一種に対しては効果がなく、シラタ米の原因となるほか、イネの伝染病も媒介するそうです。

鳥インフルエンザの対策
出典:By Photo Credit:Content Providers(s): CDC/ Dr. Erskine Palmer [Public domain], via Wikimedia Commons

はい、でました、鳥インフル!
アイガモ農法が衰退した、最大の理由はこれ、といっても過言ではない。

実はアイガモは、鳥インフルエンザウイルスと共生する、すなわち格好の「宿主」なのです!!!

アイガモ農法で最も怖いのが、アイガモが鳥インフルになる⇒田んぼでフンをする⇒フンを媒介して野鳥に感染する⇒田んぼ外へ広がる、というパターン。

これまで、鳥インフルエンザウイルスは●●型だの、xx型だの、いろんなのが出てくるたび、その毒性は増しています。
ヒトに感染することは滅多にないそうですが、今後、ヒトへも感染する「新型(変異型)」が現れる可能性も無きにしも非ず。「新型による世界的パンデミックが起こってもおかしくない」とWHOも警告しています。

メリット

  • 除草・肥料効果・害虫駆除・土の攪拌、中耕など多くの役割を果たしてくれる
  • 可愛い(これめっちゃ大事)

デメリット

  • 「人間がやるべきこと」が多い、手間がかかる
  • 総じて、なかなかにコストがかかる
  • 鳥インフルエンザの懸念

まとめ

今回は除草法について、大ボリュームでお届けしましたが、いかがだったでしょうか。 ご自分の「思想」「理念」に沿った除草法はありましたでしょうか?
紹介できなかった除草法はまだまだありますので、調べてみると面白いですよ~